春から秋にかけて、夕暮れ時に公園や川辺を歩いていると、顔の周りにまとわりついてくる小さな虫の群れに遭遇したことはありませんか。その正体は、多くの人が「蚊」と勘違いしている「ユスリカ」かもしれません。ユスリカは、見た目や大きさが蚊に酷似していますが、生態は全く異なります。彼らの正体と、なぜ私たちにとって不快な存在なのかを理解することが、効果的な対策の第一歩となります。まず、最も重要な違いは、ユスリカは人を刺したり血を吸ったりしないという点です。彼らの口は退化しており、吸血するための口吻(こうふん)を持っていません。成虫の寿命はわずか数日で、その間はほとんど何も食べず、子孫を残すためだけに活動します。では、なぜこれほどまでに嫌われるのでしょうか。その最大の理由は、その圧倒的な数です。ユスリカは、川や池、側溝などの水中で幼虫(アカムシとして知られています)の期間を過ごし、一斉に羽化します。そのため、特定の時期に爆発的に大発生し、「蚊柱」と呼ばれる巨大な群れを形成するのです。この大群が、口や目に入ってきたり、洗濯物や家の壁にびっしりと付着したりすることで、強烈な不快感と嫌悪感を与えます。さらに、彼らの短い命が終わった後も問題は続きます。大量の死骸が窓のサッシやベランダに溜まり、それを掃除する手間は計り知れません。そして、見過ごせないのが健康への影響です。このユスリカの死骸が乾燥して粉々になり、ハウスダストとして空気中に舞い上がると、気管支喘息やアレルギー性鼻炎の原因となるアレルゲンになることが知られています。これを「ユスリカ喘息」と呼びます。刺さないから無害、というわけでは決してないのです。ユスリカ対策は、単なる不快感の解消だけでなく、健康的な生活環境を守るためにも非常に重要だと言えるでしょう。