建築デザインの世界において、コンクリート打ちっぱなしはミニマリズムの象徴として長く君臨してきましたが、近年の都市型住居における衛生管理の観点からは、いくつかの課題が浮き彫りになっています。デザイナーズ物件を管理する立場の人間として、多くの方から寄せられる「ゴキブリの発生」という苦情に対し、我々は単なる清掃不足だけではない、建築設計の細部に潜む「落とし穴」を指摘せざるを得ません。その最たる例が、壁と床の接合部における巾木の省略です。一般的な住宅では、壁と床の隙間を隠すために巾木を回しますが、スタイリッシュな打ちっぱなし物件では、壁が床に直接突き刺さっているかのような「入り巾木」や「巾木なし」のデザインが好まれます。この設計は、視覚的には非常に美しいものの、床のわずかな不陸によって壁との間に数ミリの隙間を生じさせることがあり、これがゴキブリの潜伏場所や移動経路となります。また、コンクリート打ちっぱなしの内壁は、木造や鉄骨造の石膏ボード壁に比べて、音や振動が伝わりやすいという特性があります。これはゴキブリの警戒心を解く要因にもなり得ます。さらに、デザイナーズマンションに多い「コンクリート表し」の天井は、照明器具を取り付けるためのライティングレールや、露出したジャンクションボックスを多用しますが、これらのパーツの内部や背後は、清掃が行き届かないホコリの溜まり場となり、害虫の格好の餌場となります。衛生管理を徹底するためには、こうしたデザイン上の意図を尊重しつつ、いかにメンテナンス性を確保するかが鍵となります。具体的には、新築入居前にプロの手によるコーティングを施し、コンクリートの多孔質な表面を塞いで汚れの付着を防ぐこと、また、露出配管の裏側などの死角を、定期的に高機能な吸引力を持つ掃除機で清掃することが推奨されます。また、管理会社側の視点としては、建物のエントランスやゴミ置き場がコンクリート打ちっぱなしである場合、そこが害虫の一次的な集積地にならないよう、排水溝の傾斜管理や定期的な高圧洗浄を怠ってはなりません。コンクリート建築の美しさを維持することと、害虫を寄せ付けない衛生的な環境を作ることは、時として相反するように見えますが、適切な知識に基づいた隙間の封鎖と、素材の特性に合わせた湿気管理を組み合わせることで、その両立は十分に可能です。デザイナーズ物件に住むということは、その洗練された空間を維持するための、より高度な自己管理責任を引き受けることでもあるのです。