ハチ毒アレルギーの怖さを語る上で避けて通れないのが「交差反応性」という概念です。これはある特定のアレルゲンに対して作られた抗体が構造の似た別のアレルゲンにも反応してしまう現象を指します。ハチの世界においては特にスズメバチ類とアシナガバチ類の間で強い交差反応が見られることが知られています。これは分類学的にも両者が「スズメバチ科」という同じグループに属しているため毒に含まれるタンパク質の構造や成分が非常に似通っていることに起因します。具体的には毒液中の「ホスホリパーゼA1」「ヒアルロニダーゼ」「抗原5」といった主要なアレルゲン成分において高い共通性があります。この事実が意味することは極めて深刻です。例えばこれまでの人生でアシナガバチに刺されたことがある人は体内でアシナガバチ毒に対するIgE抗体が作られている可能性があります。しかしその抗体は似た構造を持つスズメバチの毒が入ってきた時にも「敵が来た!」と誤認(あるいは正しく認識)して攻撃を開始してしまうのです。つまり過去にアシナガバチに刺された経験があるというだけで本人が気づかないうちに「スズメバチアレルギー予備軍」になっている可能性があるということです。逆もまた然りでスズメバチに刺されたことがある人がアシナガバチに刺されてアナフィラキシーショックを起こすこともあります。実際に医療現場ではスズメバチに刺されて搬送された患者の問診で「過去にスズメバチに刺されたことはないがアシナガバチには刺されたことがある」というケースが頻繁に見受けられます。この交差反応の存在は「違う種類の蜂だから大丈夫」という素人判断を完全に否定するものです。一方でミツバチに関してはスズメバチ科とは毒の成分構成が大きく異なるためアシナガバチやスズメバチとの交差反応性は低いとされています(ただしゼロではありません)。したがってアシナガバチに刺された経験がある人は自分がハチ毒全般に対してリスクを持っていると認識し山林や野外活動などスズメバチが生息するエリアに行く際には細心の注意を払う必要があります。抗体検査(特異的IgE抗体検査)を行えばスズメバチ、アシナガバチ、ミツバチそれぞれに対する抗体価を調べることができますが交差反応によって両方の数値が陽性に出ることも多いです。
アシナガバチ毒の交差反応性が招くスズメバチアレルギー