登山やハイキングを楽しんでいる最中、森の静寂を破って現れる一匹のスズメバチは、ハイカーにとって最大の恐怖の対象です。閉鎖的な室内や庭とは異なり、山の中ではハチの巣がどこにあるか予測しにくく、気づいた時にはすでにハチの防衛圏内に踏み込んでいることが少なくありません。山道で一匹のスズメバチに遭遇した際の回避行動には、特有のセオリーがあります。まず第一に、ハチが現れた瞬間に大声を上げて走り出さないことです。山の急斜面で慌てて走れば転倒や滑落のリスクがあるだけでなく、激しい動きはハチの攻撃本能を瞬時に刺激します。正しい回避行動は、ハチから目を離さず、しかし直視は避け、ゆっくりと来た道を戻ることです。この際、体をできるだけ小さく丸め、ハチの攻撃対象となりやすい頭部を両腕で守るような姿勢が推奨されます。特にスズメバチは高い位置にあるものを狙う習性があるため、姿勢を低くすることは非常に有効な防御手段となります。また、山歩きの際の服装についても一言触れておく必要があります。黒や紺などの暗い色はハチを刺激するため、山に入る際は白や黄色、ベージュといった明るい色の服を着用するのが基本です。しかし、一匹のハチに遭遇してしまった後では、服の色を変えることはできません。その場でできる工夫としては、持っている白いタオルを頭に被るなどして、少しでもハチの視覚的な刺激を和らげることです。さらに、香水や制汗剤、さらにはお弁当の匂いも、一匹のハチを呼び寄せる要因となります。ハチが自分の周りから離れない時は、食べ物が入ったリュックを一時的にその場に置いて離れるといった判断も必要になるかもしれません。山での遭遇において最も厄介なのは、一匹のハチが「警告フェロモン」を放出した場合です。このフェロモンは衣服に付着すると、その場から離れてもハチが執拗に追いかけてくる原因となります。もしハチに付きまとわれ続けるようなら、川などの水辺があればその近くへ行くか、開けた場所へ出て風にフェロモンを流すなどの対策を試みてください。山という彼らの本拠地において、私たちはあくまでゲストに過ぎません。一匹のスズメバチの警告を「森の主からの退去命令」として真摯に受け止め、無理をせず引き返す勇気を持つことが、安全なアウトドアライフを継続するための鉄則です。
山歩きで一匹のスズメバチに出会った時の回避行動