時代を経て、多くの人の手を渡り歩き、独特の風格を纏った古書。その古びた紙の匂いや、ページに刻まれた歴史の痕跡は、新しい本には決してない、抗いがたい特別な魅力を持っています。しかし、この魅力と表裏一体で存在するのが、新刊書とは比較にならないほど高い害虫のリスクです。古書店やネットオークション、蚤の市などで手に入れた古書は、それまでどのような環境で保管されていたかを知る術がありません。湿気の多い倉庫に長年眠っていたかもしれませんし、前の所有者が害虫対策に無頓着だった可能性もあります。そのため、シミやチャタテムシ、あるいはその卵が、本の内部や装丁の隙間に潜んでいる可能性を常に考慮しなければなりません。心ときめく一冊と出会い、喜び勇んで家に迎え入れた時、その感動のあまり、すぐに自分の本棚のコレクションに加えてしまうのは非常に危険な行為です。その無邪気な行動が、あなたの清潔に保たれた書庫全体を汚染する「トロイの木馬」を招き入れることになりかねないのです。古書を手に入れたら、まずは自宅の本棚に入れる前に、必ず「検疫」を行うという大切な儀式を習慣にしましょう。最も簡単で確実な方法は、持ち帰った本を大きなジップロックのような密閉できるビニール袋に入れ、数日間から一週間ほど、明るい場所で様子を見ることです。もし中に虫が生きていれば、光を嫌って動き出し、袋の中に姿を現したり、フンや抜け殻のようなものが見つかったりするはずです。何も異常がなければ、次に袋から取り出し、一冊ずつ丁寧に柔らかいブラシでページの間や背表紙のホコリ、そして見えない卵を払い落とします。仕上げに、風通しの良い日陰で「虫干し」を行い、本の湿気を完全に飛ばしてから、ようやくあなたの本棚に収蔵する資格が与えられます。この一手間を惜しまないことこそが、あなたの大切な蔵書全体を未知の脅威から守るための、古書愛好家としての重要な心得なのです。
古書を家に迎える前の大切な儀式