ある初夏の朝、私はベランダの隅に小さな違和感を見つけました。それは、泥を丸めたような、せいぜいピンポン玉程度の大きさの塊でした。その時は「何か虫の巣かな」くらいにしか思わず、仕事の忙しさにかまけて放置してしまいました。それがこれほどの恐怖を招くとは、当時の私は夢にも思っていなかったのです。翌朝、洗濯物を干そうと窓を開けた瞬間、私は自分の目を疑いました。昨日までピンポン玉だったはずの塊が、一晩のうちにテニスボールを一回り大きくしたような、立派な逆とっくり型に変貌していたのです。わずか二十四時間で、これほどまでに形状が変わり、存在感が増すものなのかと、私はその場で立ち尽くしてしまいました。蜂の巣が一日でどれほど大きくなるのか、身をもって知った瞬間でした。表面には昨日にはなかった鮮やかな茶色と白の縞模様が層を成しており、ハチたちが一刻の猶予もなく働き続けていたことが一目で分かりました。巣の周りには昨日まで見かけなかった数匹のハチが忙しそうに出入りし、何やら口元でこねた材料を巣の縁に丁寧に塗り付けていました。その動きには一切の迷いがなく、まるで精密な機械が巨大な建造物を組み立てているかのような、静かながらも圧倒的な生命の力を感じました。時間が経つにつれ、私の恐怖は確信へと変わりました。午後になり、ふとベランダを覗くと、朝に見たときよりもさらに底部が突き出し、一回り大きくなっているのが分かったのです。一日のうちでも、数時間単位で形が刻々と変わっていく。その成長のスピードは、人間ののんびりとした時間感覚をあざ笑うかのように速く、冷酷でした。蜂の巣の成長は単なるサイズの拡大ではなく、そこに住まう主たちの「意志」が強固になっていく過程そのものでした。昨日なら、もしかしたら自分で火箸か何かで落とせたかもしれません。しかし、一日経って巨大化したその巣は、すでに専門家でなければ近づくことさえ許されない、不可侵の領域と化していました。私は震える手でスマートフォンの画面を操作し、すぐに駆除業者を呼びました。作業員の方は「この時期は一日に数センチ大きくなることもあります。今日呼んで正解ですよ」と淡々と言いました。その言葉に、私は一日の遅れがどれほど致命的であったかを痛感しました。蜂の巣の成長は、目に見えないところで加速する時限爆弾のようなものです。あの日、私が目撃した「一日の激変」は、自然界が持つ爆発的なエネルギーと、それに対する人間の無力さを教えてくれる、忘れられない教訓となりました。
昨日の倍になった蜂の巣に震えた一日