ある晴れた日の午後、ふとキッチンの床に目をやると、黒い小さな点がいくつか動いている。よく見るとそれは一列に並び、どこからともなく現れては、どこかへと消えていく蟻の行列だった。この瞬間、多くの人がパニックに陥り、すぐさま殺虫スプレーを手に取ろうとします。しかし、ここで一度冷静になることが、蟻との戦いを有利に進めるための最初の、そして最も重要なステップなのです。目の前の行列に驚き、やみくもにスプレーを噴射するのは、実はあまり良い手とは言えません。確かにその場にいる蟻は退治できますが、これは問題の根本的な解決にはならず、むしろ事態を複雑にしてしまう可能性すらあります。なぜなら、蟻は「道しるべフェロモン」と呼ばれる化学物質を出しながら歩き、後ろの仲間がそれを頼りに同じルートを辿ってくるからです。スプレーで蟻を蹴散らしてしまうと、生き残った蟻がパニックを起こして四方八方に散らばり、新たなフェロモンをあちこちにつけてしまうことで、被害範囲を広げてしまうことがあるのです。では、どうすれば良いのでしょうか。まず行うべきは、蟻の行列の終点、つまり餌となっているものを特定し、それを取り除くことです。次に、濡れた雑巾やアルコールを含んだウェットティッシュなどで、蟻が歩いたルートを丁寧に拭き取ります。これにより、後続部隊が道を見失い、一時的に行列の更新を止めることができます。これが応急処置です。しかし、本当の戦いはここからです。家の中まで働き蟻が来ているということは、その供給源である巣が近くのどこかに必ず存在します。この巣を根絶やしにしない限り、斥候となる蟻は何度でも新たなルートを探しにやってきます。ここで切り札となるのが、ベイト剤と呼ばれる毒餌です。働き蟻に毒餌を運ばせ、巣の中にいる女王蟻や他の仲間たちに分け与えさせることで、巣ごと全滅させるのです。そして最終段階として、蟻が家の中に侵入してくる隙間を特定し、物理的に塞いでしまうこと。この「応急処置」「巣ごと駆除」「侵入防止」という三段構えの戦略こそが、蟻退治の王道であり、平穏な日常を取り戻すための最も確実な道筋なのです。
家の中の蟻を退治する最初のステップ