私が以前住んでいた木造アパートの一階の角部屋は、日当たりが悪く、とにかく湿気がひどい部屋でした。春を過ぎ、梅雨が近づくにつれて、その問題は目に見える形で現れ始めました。壁紙の隅や、窓際に置いた本棚の裏に、茶色い粉のような、一ミリほどの小さな虫が大量に発生したのです。正体はチャタテムシでした。掃除機で吸っても、翌日にはまた同じ場所に現れる。その生命力と数の多さに、私はすっかり滅入ってしまいました。賃貸なので大掛かりなリフォームはできません。限られた条件の中で、私は湿気虫との長い戦いを開始しました。まず、換気と除湿の徹底です。朝起きたらすぐに全ての窓を開け、サーキュレーターを回して空気を循環させることを日課にしました。小型の除湿機を購入し、特に湿気がひどい北側の部屋で一日中稼働させました。タンクに溜まる水の量を見るたびに、この部屋がいかに湿気を溜め込んでいるかを実感しました。次に、家具の配置を見直しました。それまで壁にぴったりとつけていた本棚やタンスを、壁から五センチほど離して設置し、空気の通り道を作りました。ベッドの下にもすのこを敷き、湿気がこもらないように工夫しました。掃除も、これまで以上に念入りに行いました。特に、虫が大量発生していた壁際は、消毒用エタノールを吹き付けた布でこまめに拭き、カビの発生を抑えるよう努めました。押し入れや靴箱には、これでもかというほど除湿剤を詰め込みました。効果はすぐには現れませんでした。しかし、これらの地道な対策を一ヶ月ほど続けた頃、壁にいた虫の数が明らかに減っていることに気づいたのです。完全にいなくなるまでにはさらに時間がかかりましたが、最終的にはほとんど見かけなくなりました。この経験を通して、私は湿気虫との戦いは、一発逆転の特効薬を探すのではなく、日々の地道な環境改善の積み重ねこそが最も有効なのだと学びました。